スマホ版等で誰しも遭遇するエンディング「暗夜行路」
一番最初のエンディングとして設定されており、いわゆるバッドエンド的な内容になっています。
理由もわからず周りの人が死に続け、そして屋敷は炎上。零は炎の中に消えて消化不良の気持ちを抱えたままの誠一の元に紅が現れ……というホラーめいた内容で終わり。
主人公は不条理と理不尽に巻き込まれ、日常に戻っても怪異が追いかけてきて……というホラー物では結構定番と言ってもいいエンディングです。
……が、解放の羽を進めていく事で実は一つの疑問が生じると思います。
「紅ってこの土地を離れられないんじゃ?」
そうです……これが第一のエンディングの仕掛け。
紅は蜘蛛神が土地を訪れた如月家と取引をして与えた、人の心を理解する……異種族の間を取り持つための監視の目でもあるため、本来なら伊沢の土地を離れられないんです。
ですが、「暗夜行路」では普通に誠一を追いかけている……ではこれは紅が伊沢の土地から解き放たれた、演出とは裏腹のハッピーエンドなのか? というのが今回の話になります。
作中では一貫して、如月家の血族も紅も、伊沢の土地という蜘蛛の糸に囚われている扱いです。つまり、ここから外に出ている時点で紅は蜘蛛の糸から解き放たれて自由になっている。
ホラーの定番の演出ながら、そんな矛盾をはらんだ終わり方になっています。
作中で紅が伊沢の街を離れているエンディングは2つしかありません。
皆が不幸になる最初のエンディング「暗夜行路」
皆が未来に向けて歩いていく最後のエンディング「解放の羽」
紅が伊沢の街を離れている時点で、蜘蛛の糸から解き放たれているのは明白……では、この両極端なエンディングは一体どこに違いがあるのか?
そのヒントは、零のエンディング「浄化」にあります。
「浄化」において、零は紅とともに心中を考えました。
如月家とともに消滅させる……そして土地の因縁も全て自分の手で決着をつけて、外には出さない。特に巻き込んでしまった誠一には迷惑を掛けない。そのために自分の手ですべてを葬る。
この零の思考は「暗夜行路」の時と全く同じです。
「浄化」では誠一が割り込んだ事で、そこに一つの違いが生まれます。
誠一に一切の謎を明かさず、一人で戦おうとした「暗夜行路」の零も、最後まで戦い抜いて紅と共に消えた零も果たした行動は同じ。けれど、誠一と別れたままの「暗夜行路」の零は、最期の最期に一つだけ強い思いを抱きました。
それが……誠一ともう一度会いたい。
紅は人の強い想いに反応し、自らに写し取る鏡です。
そして誠一と蜘蛛の約束を交わし、自らの伴侶としている紅にとってこの零の想いはとても自然に馴染む物でした。
「暗夜行路」では紅は誠一と会うために活動を始め、それがあの結末に繋がります。
紅が生み出された目的は二つ。
如月家の監視と、人との相互理解のための架け橋としての心を写し取る。
如月家の縁者が誠一達だけになれば、誰も残っていない伊沢に残り続けるよりそちらが優先される訳です。
ちなみに「暗夜行路」のルートでのおサエさんの死因は紅による殺害です。
「鋭利な刃物で」「首を切りさかれた」という死因がそれです。包丁一本では喉を突く事は出来ても自殺で切り裂くのは非常に困難です。
一葉が犯人なのでは?と不安を抱いた所を紅に唆され、自殺をすることで庇えるという風に思考を誘導され、死に意識が向いたためにそれを感じ取った紅に殺された訳です。
そして水無月家に属するサエも如月家の縁者の一人。
こうして自らの手で如月家の血筋を断つ事を覚えた紅は「暗夜行路」で誠一の元にたどり着くまでに伊沢の土地に残る他の分家一族も手にかけています。
自らの手でその土地の因縁に纏わる者を皆殺しにした結果、土地から縛られなくなった というのが暗夜行路で紅が外に出られている理由な訳です。
ですが、これでは最終的に誰も救いにならないのも明白の終わり方です。そのため未来には続かないという意味で「暗夜行路」の名前を付けました。
補足として「浄化」において零は紅とともに炎の中に果てるのですが、こちらの違いは誠一が零を信じ、彼女の元を訪れたか否かの違いになっています。
最期に誠一に会いたいという強い想いを抱いた零は、それが果たされると同時に誠一を巻き込みたくないという願いに代わり、それをくみ取った紅の手により誠一は助けられ……すべての願いを果たして満足したまま炎に消えていきます。
零のエンディングはもの悲しさを伴った物ばかりですが、その終わり方には彼女の強さが現れてると思います。
そんな訳で、月影のシミュラクル-解放の羽-のエンディング解説となります。
時間が経った頃にもう一度プレイして貰えたら、もしかしたら最初に通った時とは違う印象を抱くかもしれませんね。
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