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コンチェルトノート『月光館記譚』

2009年冬コミでブースに置いていた媛子の短編です。
莉都ルートのエンディング、媛子が取材に来た時のエピソードです。

「月光館を取材?」

 ある放課後、莉都が唐突に言った。
「そうだ。斎宮から申し出があってな。月光館を取材して新聞に掲載したいそうだ」
「あれ? でも前にもなかったっけ」
 和奏さんが首を傾げる。
 確かに前にも来た事があったような……。
「それなら本人に聞いた方が早いだろう」
 莉都が入り口の方を見ると、そこには白雪と共に媛子ちゃんが立っていた。

「前に書いた記事がとても好評だったっすよ。やっぱりみんな興味深々っすからね」
「莉都が目立つのは確かだからなぁ。学園の近くでしかもメイドさんまで一緒。今じゃ星華先輩も住んでるわけだし」
「りじちょーさんに負けずに倉上先輩も目立ってるっすよ」
「……俺が? どうして?」
「そりゃそうっすよ。だってりじちょーさんとお付き合いしていて、しかも一緒に住んでるっすから。そりゃ噂になりますよ」
「あー……そうだよねー。自分たちでラブラブの噂流してたくらいだもんね。それも付き合いはじめる前に」
「…………」
 何をどう言い返せばいいのか。
「そんな訳で、月光館はみんなの興味の的っすよ。どんな生活なのか知りたいと思ってる人多いです」
「と、いう事らしいが……どうする? 私は別に構わんのだが、住んでる人間にも聞いておこうと思ってな」
「わたしは別にかまわないけど」
 和奏さんが頷く。
 白雪は既に話を聞いていたようで、承知のように頷いていた。
「つかこの前と同じ取材だろ? 何もそこまで大げさな――」
「あ、いや。違うっすよ」
 媛子ちゃんが顔の前で手を振る。
「より密着した取材のために、これから月光館でお世話になるっす」
「…………はい?」


 §


 授業が終わり月光館に帰ってきた。
 ロビーにいた先輩に媛子ちゃんが説明している。
「そういう訳で、密着取材させて欲しいっすよ。いいっすか?」
「あたしは別に構わないけど……寮と大差ないし、面白くもなんともないと思うけどなぁ」
「そんなことないっすよ。かいちょーさんに憧れてる子も多いっすから私生活が分かるだけでも喜びますよ」
「え、ほんとに? なんだか照れるね……」
 ぽりぽりと頬をかく。
 僅かに朱に染まっている。
「私も特に問題ありません」
「では決定だな。部屋は――夜まで待ってくれ。その間には掃除も終わるだろう」
「あ、それでしたら私の所に泊めて上げてもいいですか?」
「それは構わんが、東条の部屋も狭くなるだろう」
「いえ……友達がお泊りに来るなんて初めてで……ちょっとわくわくしています」
「では後で毛布とお布団を用意しますね」
「はいっす。ありがとうございます」
 白雪と媛子ちゃんが上にあがっていく。
 それを見送って、先輩はどっかりとソファに沈み込んだ。
「密着取材ねぇ……面白いことなんて何も無いと思うんだけど」
「さてな」
「神凪の生態調査が目的じゃないの? 珍獣は珍しがられるから珍獣って言うんだし」
「ああ、そうだな。人間社会に溶け込んでいるゴリラはさぞかし珍しいだろう」
「へぇ……面白いこと言ってるじゃない。どこにそんなのがいるって?」
「月光館の個室には全て鏡がついているのだがな。見たことなかったのか」
 二人の間でバチバチと火花が散っている。
「…………またこの二人は」
「きっと二人とも面白いんだと思う」
 和奏さんと深々とため息をついた。


「お待たせしましたっす。これからお世話になります」
 荷物の運び入れも終わり、二人が降りてきた。
 手にはメモ帳とペンを持っている。
「取材って何か手伝った方がいい?」
「あ、気にしないで欲しいっすよ。普通に過ごしてる所を見せて欲しいっす」
「わかった」
 莉都が代表して頷く。
 でも……普通の生活なんてネタになるようなことあるかな……?


 ――夕食時。
 食堂の方から声が聞こえる。

「ここの食事は全部小夜璃さんが作ってるっすか?」
「はい、そうです。ですが、よく皆さんがお手伝いしてくださいます」
「ふむふむ……なるほど。ちなみに一番料理が上手い人は誰っすかね」
「そうですね……レシピを忠実に再現できるのが莉都様で、アレンジをされるのが名凪様でしょうか」
「他の方は普通くらいっすか。ちなみに白雪ちゃんはどうっすかね」
「きっと、そのうち上手くなると思いますよ」
「……了解っす」


 ――夜。

「ほへぇ……こりゃすごいっすね」
 月光館のロビーをみて、媛子ちゃんが感嘆する。
 満月とまではいかないが、月が大きくなる時でよかった。新月になると、ここは普段よりも一層深い闇になる。
「写真撮ってもいいっすか?」
「構わんぞ」
「では失礼して……」
 デジカメを持って撮影ポイントを探して歩く。
「あ、りじちょーさん、よかったら被写体になって欲しいっすよ」
「……私がか?」
「ロビーだけよりも読者受けすると思うですよ」
「いいんじゃないか?」
 媛子ちゃんを後押しする。
 莉都はしばし逡巡していたが、やれやれとため息をついた。「せっかくだから進矢。お前もこい」
「俺も……? いや、そりゃ邪魔なだけだろ」
「そんなことないっすよ。普段の生活を見せて欲しいっすから」
「ここで普段やってることねぇ……」
 とりあえずソファに座ってみる。
 並んで座って、誰かとダベって……ロビーでやる事なんてそれくらいだ。
「茶でも持ってくるか?」
 莉都も隣に座った。
 腕組みをして足を組んで、ふんぞり返った姿勢がなんとも言えず偉そうだ。
「おー。いい雰囲気っすね~」
「……そうかぁ?」
 媛子ちゃんは構わずパシャパシャと撮りまくる。

 ……こんなの、使い物になるのかなぁ。


 ――登校。

 林道を歩いて坂道を目指す。
 外観から通学路までもデジカメに収めていた。
「昨日はよく眠れた?」
「はいっす。お風呂出た後は朝までぐっすりだったですよ」
「媛子ちゃん本当にすぐ寝ちゃって……夜にお喋りするの、少し楽しみにしていたのに」
「ははは、申し訳ないっす」
「あ~、修学旅行のノリだね~。女の子の部屋の夜のお喋り。悩みを打ち明けたり、好きな人の事を話したり……」
「ずいぶん具体的だが、今里もそういう話をしたのか?」
「し、してないよっ! 単にそういうのが一般的っていうだけ。世間の常識だよっ!」
「一般的なのに今里はせず、それなのに常識なのか……」
 莉都がぼそりと突っ込む。
 意図してのことではないだろう。本気で不可解に思っている。
「もう……意地悪なんだから」
 ぶすっとする和奏さんと、下級生二人が見つめていた。
「先輩方って、ほんとに仲いいっすね。ちょっと羨ましいっす」
「え~。普通だよ普通。媛子ちゃんと白雪ちゃんも仲いいじゃない」
 白雪はいい子だが、社交性があるとは言えない。
 媛子ちゃんは押しが強い方で、それでバランスが取れている。
「二人は昔からの付き合い?」
「いや斎宮は女子寮在住だぞ。実家はここではないだろう」
「わたしは昔は三重の方に住んでたっすよ。親戚がこっちに住んでて、付属の頃はそこから通ってたっす」
「媛子ちゃんとは、付属の入学式で知り合いました。同じクラスだったんですよ」
「私と今里みたいなものか」
「りっちゃんの事は転校してから知ってたよ。すっごく目立って有名だったし」
「そこは立場柄仕方ないからな」
「お前の場合、そう言う問題じゃないだろ……」
 仮に莉都が何の肩書きも無いイチ生徒だったとしても、間違いなく目立っている。
「りじちょーさんと今里先輩の出会いのお話も知りたいっすよ」
「あはは。そのうちにね」
 そんな話をしながら、通学する。
 校門が見えたところで媛子ちゃんは思い出したように振り返った。
「……登校の写真。撮るのすっかり忘れてたです……」


 ――昼。

 媛子ちゃんの密着取材は昼になっても続いていた。
 学園にみんなが行っている時の館という題材で、小夜璃さんの仕事振りや人の居ない月光館を撮るらしい。
 自然と昼はその話題になっていた。
「月光館の取材が生徒にウケたとして、入居希望とか出たらどうすんだ?」
「あ、そうだよね。あそこも一応寮なわけだし……」
 莉都の方を見る。
 特に気にした風でもなく頷いた。
「特に問題はないだろう」
「そういうものなの?」
「ああ……第一、個室の設備などは寮の方が圧倒的にいいんだ。


「あ、それは思うぜ」
 パンを齧りながら陽太が話しに入ってくる。
 昨日はバイトで月光館には居なかったが、陽太と上杉は両方の経験者だ。
「こっちは古いからな。見た目で言うなら寮の方が綺麗で広くて新しい」
「パンフ見た時は、どこのマンションだって思った」
「でも住んでみるとこっちの方がいいけどな。なんてったって――」
「メイドさんが居る?」
 和奏さんがぼそりという。
 思わず頷いた。
「それは重要」
「選択の余地がないよな」
「そんなにメイドさんが好きかーっ!」
「真面目な話、小夜璃さんが居てこその月光館って感じはするんだよな……あのお帰りなさいを聞くために帰ってるっつーか」
「そりゃそうだけど……」
「今頃、小夜璃と斎宮はどのような話をしているんだろうな」
 その辺りの内容は本番の記事に載るんだろうか。
 少し、楽しみだと思った。


 §


 月光館の住人を送り出し、午前中に書類などを片付ける。
 夕月小夜璃の普段の生活はそこでひとまず休憩が入る。昼食を兼ねた昼休みであり、これが終わった後には今度は館の管理が入る。
 そしてその時間に来客があった。
「なんだか申し訳ないです」
「いえいえ、お構いなく」
 斎宮媛子に食後のコーヒーを出して、小夜璃はソファに腰掛けた。
「色々とありがとうございました」
 媛子が頭を下げる。
 普段は砕けた態度の少女だが、節々で折り目の正しい行儀のよさを見せている。
 良い所の少女なのだろうかと小夜璃は思い、この学園はそういう子女が多いのだと思いなおした。
「斎宮様は地元の方ですか?」
「いや、生まれは三重の方っすよ」
「では通学のために寮に」
「あー……どうなんでしょう」
 自分の事のはずが、どこか他人事のように頭をかいている。
「実はあんまり、自分の家のこと知らないです」
「それは、どういう……?」
「こっちに親戚の家があって、昔からそこで暮らしてたですよ。だから、実家ってあんまり覚えてないです」
「そうなのですか……」
 どう答えを返そうかと、小夜璃は一瞬詰まった。
 家庭の事情というものは千差万別で、それは本人にとっては当たり前であっても、他人に語った時点でその人を形付くる特別になる。
 媛子は肩肘を張って答えたわけではなく、単に小夜璃の質問に答えただけ。
 それが分かっているからこそ、どのように言葉を繋げるのが自然なのか、分からなかった。
「あはは。ごめんなさいです。なんだか変な感じっすよね」
「そのようなことは……」
「いいっすよ。よくあるのか珍しいのかわからないけど、自分でも話しててなんか変な感じがするですから」
 少女はあっけらかんとして語っている。
 そこに影のようなものは一切無かった。
「まだ一日っすけど、なんかここって良いですね」
「ありがとうございます」
「暖かくて、みんながいて……。先輩方は見てるとハラハラするっすけど」
「はい……莉都様と名凪様は、もう少し仲良くなられても……あ」
 しまったと小夜璃が口元を押さえる。
 媛子はそれを見て笑った。
「あはは。内緒にしておくっす」
「よろしくお願いします」
 そろそろ教室に戻ると、媛子は立ち上がる。
「色々とありがとうございました。これで記事が書けそうっすよ」
「楽しみにしています」
 手を振りながら、媛子は月光館を後にする。

 一度振り返った先、洋館は陽光を浴びて森の中に静かに佇んでいた。


 §


 ――後日、月光館の取材記事を載せた新聞が発行された。
 新聞部の一年、斎宮媛子の体験記事付きで今まで出した記事の中で、最も好評を博したという。

 月光館にまつわる記事は、こう締めくくられている。

『この館が持つ暖かさは、寮としての外観や設備、年代から来るものではなく、そこに住む暖かな人たちによってもたらされるものだった。理事長の私邸となっている月光館だが、そこに住む人たちが織り成すのは、家族やそれに近しいものだと筆者は感じた』

「共通の何かを乗り越えたという信頼関係が見える……か、なんだかくすぐったいな」
 教室で記事を読みながら、莉都に言った。

「共通の何か……か。まさしくその通りだな」
「まあねぇ」
 たった2週間の特別な日々。
 しかしそれは、決して忘れられないお祭りのような騒ぎだった。

「今が少し物足りないとか思ってる?」
 和奏さんが言う。
 あの時に比べ、失ったものは確かに多い。
「少しだけ。でも、いつか取り戻すよ」

 そして、その時に得る物はきっと前よりも増えている。
 白雪は今度は単に遊びに来るようにと誘ってみるつもりらしい。
 そうやって少しずつ輪ができていけばいいと、記事を見ながら思った。
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